作者:夏目漱石 来源:青空文库 00:00
さっきから松原を通ってるんだが、松原と云うものは絵で見たよりもよっぽど長いもんだいつまで行っても松ばかり
東京を立ったのは
足はだいぶ重くなっている。
掛茶屋がある
休もうかな、
こう書くと、何だか、長く
歩き出してから五六間の間は変に腹が立った。しかし不愉快は五六間ですぐ消えてしまったと思うとまた足が重くなった。――この足だもの何しろ鉄の
その上こんな事を気にしていられる身分じゃないいったん飛び出したからは、もうどうあっても
東京を立った
のみならず歩けば歩くほどとうてい抜ける事のできない曇った世界の中へだんだん深く
この曇った世界が曇ったなりはびこって、
意地の悪い事に自分の行く路は明るくもなってくれず、と云って暗くもなってくれないどこまでも半陰半晴の姿で、どこまでも片づかぬ不安が立て
不思議な事にいっその事と観念して見たが別にどきんともしなかった今まで東京にいた時分いっその事と無分別を起しかけた事もたびたびあるが、そのたびたびにどきんとしない事はなかった。
ただ暗い所へ行きたい、行かなくっちゃならないと思いながら、雲を
実を云うとこの男の顔も
とにかく引き返して
「若い
と云いながら、大きな
と
「
と云った自分は今が今まで暗い所へ行くよりほかに用のない身と覚悟していたんだから、
「御前さん、働く了簡はないかねどうせ働かなくっちゃならないんだろう」
とどてらがまた問い返した。問い返された時汾にはこっちの腹も、どうか、こうか、受け答の出来るくらいに眼前の
「働いても
これは自分の答である。しかしこの答がいやしくも口に出て来るほどに、自分の頭が間に合せの工面にせよ、やっと片づいたと云うものは、単純ながら一順の過程を通っておる
自分はどこへ行くんだか分らないが、なにしろ人のいないところへ行く気でいた。のに振り向いてどてらの方へあるき出したのだから、歩き出しながら何となく自分に対して
「働いても、いいですが」
答は何の苦もなく自分の口から
「働いても、いいですが、全体どんな事をするんですか」
と自分はここで再び聞き直して見た
「大変
どてらは上機嫌の
「ええやって見ましょう」
「やって見る? そいつあ結構だ君
「そんなに儲けなくっても、いいですが……」
どてらはこの時妙な声を出した。
「全体どんな仕事なんですか」
「やるなら話すが、やるだろうね、お前さん話した後で
どてらはむやみに念を押す自分はそこで、
と答えた。しかしこの答は前のように自然天然には出なかった云わばいきみ出した答である。大抵の事ならやって
そこでどてらは
「じゃ、まあ
と云う別に異存もないから、茶店に這入ってどてらの隣りに腰をおろしたら、口のゆがんだ㈣十ばかりの
「君、
と、どてらが「朝日」の袋を横から差し出したなかなか御世辞がいい。袋の
「ありがとう、たくさんです」
と断ると、どてらは別に失望の
「御前さん、
どてらは自分の事を御前さんと云ったり君と云ったりするようだが、何で区別するんだか要領を得ない今までのところで察して見ると、
と答えた。実際その時は十九に違なかったのである
と口のゆがんだ神さんが、
「そうさ、十九じゃ若いもんだ働き盛りだ」
と、どうしても働かなくっちゃならないような語気である。自分はだまって
正面に
「御饅頭を上がんなさるかね。まだ新しい
かみさんは、いつの
「まあ、大変な蠅だ事」
と云いながら、翳した手を
「仩がるんなら取って上げよう」
神さんはたちまち棚の上から木皿を一枚おろして、長い竹の
「こっちがいいでしょう」
と木皿を、自分の腰を掛けていた
と云って見た。これはあながち「朝日」の御礼のためばかりではない幾分かはどてらが一昨日揚げた蠅だらけの饅頭を食うだろうか食わないだろうか試して見る腹もあったらしい。するとどてらは
と云いながら、何の苦もなく一番上の
いかに
今度は「一つ、どうです」とも何とも云わずに、木皿が
とどてらが云った自分はだいぶやる気も何もなかったが、云われて見るとだいぶやるに違ない。しかしこれは
「君、揚饅頭がよっぽど好きと見えるね」
と今度は云った饅頭にも寄り切りで、
「うちの
神さんの言葉を聞いた時自分は何だか馬鹿にされてるような気がした。そこでますます黙ってしまった黙って聞いてると、
「旨い事この上なしだ」
とどてらが云ってる。本当なんだか御世辞なんだかちょっと
「
とこっちから口を切って見たどてらは正面の菓子台を
「君、
と、またぞろ自分を君
「僕はそんなに儲けなくっても、いいですしかし働く事は働くです。神聖な労働なら何でもやるです」
どてらの頬の
一種特別な笑い方をしたどてらは、その笑いの収まりかけに、
「お前さん、全体今まで働いた事があんなさるのかね」
と少し真面目な調子で聞いた働くにも働かないにも、
「働いた事はないです。しかしこれから働かなくっちゃあならない身分です」
「そうだろう働いた事がなくっちゃ……じゃ、君、まだ儲けた事もないんだね」
と当り前の事を聞いた。自分は返事をする必要がないから、黙ってると、茶店のかみさんが、菓子台の
「働くからにゃ、儲けなくっちゃあね」
と云いながら、立ち上がったどてらが、
「全くだ。儲けようったって、今時そう儲け口が転がってるもんじゃない」
と幾分か自分に対して恩に
と幾分かさげすむように聞き流して、裏へ出て行ったこのそうさが妙に気になって、ことによると、まだその
「
とまた恩に
と四角張って答えて置いた
「実はこう云う口なんだがね」
と、どてらが、すぐに云う。自分は黙って聞いていた
「実はこう云う口なんだがね。
自分は哬か返事を
「何しろ、
とかみさんの方へ話の
「そうとも、今からすぐ坑夫になって置きゃあ四五年立つうちにゃ、
と一句、一句
要するにこのかみさんも是非坑夫になれと云わぬばかりの
同時に自分のばらばらな魂がふらふら不規則に活動する現状を目撃して、自分を他人扱いに観察した
惜しい事に当時の自分には自分に対する研究心と云うものがまるでなかった。ただ
そこで平生の自分なら、なぜ坑夫になれば結構なんだとか、どうして坑夫より下等なものがあるんだとか、自分は
何でもこの時の自分は、単に働けばいいと云う事だけを考えていたらしいいやしくも働きさえすれば、――いやしくもこのふわふわの魂が五体のうちに、うろつきながらもいられさえすれば、――要するに死に切れないものを、
その上坑夫と聞いた時、何となく
そこで自分はどてらに向ってこう云った
「僕は一生懸命に働くつもりですが、坑夫にしてくれるでしょうか」
するとどてらはなかなか
「すぐ坑夫になるのはなかなかむずかしいんだが、
と云うから自分もそんなものかなと考えて、しばらく黙っていると、茶店のかみさんがまた口を出した。
「
自分はこの時始めてどてらの名前が長蔵だと云う事を知ったそれからいっしょに汽車に乗ったり、下りたりする時に、自分もこの男を
さてこの長蔵さんと、茶店のかみさんがきっと坑夫になれると受合うから、自分もなれるんだろうと思って、
「じゃ、どうか何分願います」
と頼んだ。しかしこの茶店に腰を掛けているものが、どうして、どこへ行って、どんな手続で坑夫になるんだかその
何しろ先方でこのくらい勧めるものだから、何分願いますと云ったら、長蔵さんがどうかするに違ないと思って、あとは聞かずに黙っていた。すると長蔵さんは、勢いよくどてらの尻を
「それじゃこれから、すぐに出掛けよう御前さん、
と云った自分はうちを出る時、着のみ着のままで出たのだから、
と立ち上がったが、神さんと顔を見合せて気がついた
「坑夫になって、うんと溜めて帰りにまた
と云ったのを記憶している。その
「御前さん馬車へ乗るかい」
と答えたそうしたら今度は
「乗らなくってもいいかい」
と反対の事を尋ねた。自分は
「乗らなくってもいいです」
と答えた長蔵さんは三度目に
と答えた。その内に馬車は遠くへ行ってしまった
「じゃ、歩く事にしよう」
と長蔵さんは歩き出した。自分も歩き出した向うを見ると、今通った馬車の
「ここは何と云う所です」
と聞いたら、長蔵さんは、
「ここ? ここを知らないのかい」
と驚いた様子であったが、笑いもせずすぐ教えてくれたそれで所の名は汾ったがここにはわざと云わない。自分がこの繁華な町の名を知らなかったのをよほど不思議に感じたと見えて、長蔵さんは、
「お前さん、いったい生れはどこだい」
と聞き出した考えると、今まで長蔵さんが自分の過去や経歴について、ついぞ
と云ったなり、あとは何にも聞かずに、自分を引っ張るようにして、ある横町を曲った。
実を云うと自分は相当の地位を
事の起りを調べて見ると、中心には一人の少女がいる。そうしてその少女の
VIP专享文档是百度文库认证用户/机構上传的专业性文档文库VIP用户或购买VIP专享文档下载特权礼包的其他会员用户可用VIP专享文档下载特权免费下载VIP专享文档。只要带有以下“VIP專享文档”标识的文档便是该类文档
VIP免费文档是特定的一类共享文档,会员用户可以免费随意获取非会员用户需要消耗下载券/积分获取。只要带有以下“VIP免费文档”标识的文档便是该类文档
VIP专享8折文档是特定的一类付费文档,会员用户可以通过设定价的8折获取非会員用户需要原价获取。只要带有以下“VIP专享8折优惠”标识的文档便是该类文档
付费文档是百度文库认证用户/机构上传的专业性文档,需偠文库用户支付人民币获取具体价格由上传人自由设定。只要带有以下“付费文档”标识的文档便是该类文档
共享文档是百度文库用戶免费上传的可与其他用户免费共享的文档,具体共享方式由上传人自由设定只要带有以下“共享文档”标识的文档便是该类文档。
版权声明:文章内容来源于网络,版权归原作者所有,如有侵权请点击这里与我们联系,我们将及时删除。