あやしうつむりのなやましうて、夢のやうなるきのふ今日、うき
庭の
も哀れなる中に秋はまして身にしむこと多かり
のかげなどうら淋しく、寝られぬ
とはなしに針をも取られぬ。まだ
なる人に縫物ならひつる頃、
づかしう言はれしいと恥かしうて、これ習ひ得ざらんほどはと、家に近き
といふ事をなしける、思へばそれも昔しなりけり。をしへし人は
の下になりて、習ひとりし身は
もの忘れしつかくたまさかに
るにも指の先こわきやうにて、はか/″\しうは
ひがたきを、かの人あらばいかばかり言ふ
なく浅ましと思ふらん、など打返しそのむかしの恋しうて、
るやうなる雨、近き板戸に
つけの騒がしさ、いづれも淋しからぬかは。
せたる肩もむとて、骨の手に当りたるも、かかる
はいとゞ心細さのやるかたなし
にゆられて見ゆるかげ物いふやうにて、手すりめきたる所に寄りて久しう見入るれば、はじめは浮きたるやうなりしも次第に底ふかく、この池の深さいくばくとも
られぬ心地になりて、月はそのそこの底のいと深くに
らん物のやうに思はれぬ久しうありて仰ぎ見るに、空なる月と水のかげと
のかたちとも思はれず。物ぐるほしけれど箱庭に作りたる石一つ
すこし汾れて、これにぞ月のかげ漂ひぬかくはかなき事して見せつれば、
て出でつらん、我れもお月さま砕くのなりとて、はたと捨てつ。それは亡き兄の物なりしを身に伝へていと大事と思ひたりしに、
なき事にて失なひつる罪
がましき事とおもふこの池かへさせてなど訁へども、まださながらにてなん。
もとゞめぬを、硯はいかさまになりぬらん、
しくなどある人の心安げに
たる男にても嬉しきを、まして女の友にさる人あらば、いかばかり嬉しからん。みづから
にてもおこせかし歌よみがましきは憎くき物なれど、かかる
には身にしみて思ふ友ともなりぬべし。
うりのこゑ、汽車の笛の遠くひゞきたるも、
とはなしに魂あくがるゝ心地す
あれたれども、月さすたよりとなるにはあらで、向ひの家の二階のはづれを
る影したはしく、大路に
あふぐに、秋風たかく吹きて空にはいさゝかの雲もなし。あはれかかる
よ、歌よむ友のたれかれ
の物がたりなど言ひ交はしつるはと、
かにそのわたり恋しう涙ぐまるゝに、友に別れし雁
にかゆくさびしとは世のつね、命つれなくさへ思はれぬ。
りて聞えたるいかならん
して尛さき子の大路を走れるは、さも淋しき物のをかしう聞ゆるやと
に飼ひて、露にも霜にも当てじといたはりしが、その
な/\鳴くこゑ耳につきて
はしく、あの声なくは、この
おろして庭草の茂みに放ちぬ。その
なくやと試みたれど、さらに声の聞えねば、
く、鳴くべき勢ひのなくなりしかと
れみ合ひし、そのとし暮れて兄は
りつ又の年の秋、今日ぞこの
ふけて近き垣根のうちにさながらの声きこえ出ぬ。よもあらじとは思へど、
そのものゝやうに懐かしく、恋しきにも珍らしきにも涙のみこぼれて、この虫がやうに、よし
なりとも声かたち同じかるべき人の、
こゝに立出で来たらばいかならん我れはその
らへて放つ事をなすまじく、母は
しさに物は言はれで涙のみふりこぼし給ふや、父はいかさまに
し給ふらんなど怪しき事を思ひよる。かくて
にゆきけん、仮にも声の聞えずなりぬ
今も松虫の声きけばやがてその折おもひ
にも思ひ寄らず、おのづからの
その人の別れのやうに思はるゝぞかし。
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