社会を変えるような革新的技術を生み出し、育てていく日本の科学技術研究の活力を取り戻すための道筋を描くことが重要である。
政府の総合科学技術?イノベーション会議の専門調査会が、来年度から始まる第5期科学技術基本計画の中間取りまとめを公表した経済成長に役立つ科学技術の必要性を強調したのが特徴だ。年内に最終的な計画を確定する
基本計画は、5年ごとに策定されてきた。これに基づき、科学技術政策には過去20年間で80兆円を超える国費が投じられた大学の研究環境は向上し、スーパーコンピューター「京」など、最高水準の設備も導入された。
一方で、世界トップクラスの論文に占める日本の割合は、右肩下がりの状況にある
研究力の低下を反映していると言えるだろう。
専門調査会が目指す新産業創出などにつながる研究を充実させるには、斬新で柔軟な発想を持つ若手研究鍺の育成が欠かせない
1996年度から5年間の第1期計画では、ポストドクター(博士研究員)の1万人支援計画が掲げられた。大学の研究職を5年程度の任期制とすることで、人材の流動性を高め、研究現場を活性化するのが狙いだった
だが、任期制は研究者の雇用の不安定化を招いた。腰を据えて息の長い研究に取り組む余裕が失われた将来への不安から、博士課程を目指す学生も減っている。
東大では現在、任期制のポストが6割を超える
こうした現状を考えれば、専門調査会が、ベテランにも任期制を導入し、若手の長期雇用を増やすべきだと提言したのは妥当だ。理化学研究所は既に、提言に沿った新方針を打ち出している
研究資金の配分も、再検討が必要だろう。国立大では、短期間での顕著な成果を求める競争的資金が増え続ける一方で、地道な研究を継続的に支える運営費交付金は減少傾向にある
無論、世界レベルの研究を結実させるための競争的資金は重要だが、それに特化し過ぎて、長い年月を要する有望な研究が停滞する事態は避けねばならない。
研究者を育てる大学院教育の変革は不可欠だ専門調査会は、企業などで実践的な研究を経験し、幅広い知見を身に付ける機会を提供するよう求めている。
在学中だけでなく、大学院修了後の若手研究者を受け入れる企業を増やすことも大切である