栗山千明、アイドルオタクに！「婚外恋愛に似たもの」安達祐実、平井理央らと共演「校閲ガール」でも知られる人気作家?宮木あや子氏原作の「婚外恋愛に似たもの」が、栗山千明主演でドラマ化されることが決定した安達祐実、江口のりこ、平井理央、富山えり子が共演する。ドラマは、普通に生活していたら出会わなかったであろう5人の女性が抱える、妊活疲れやセックスレス、夫の浮気、独身女性を苦しめるシングルハラスメントなどの悩みや不満、トラブルをリアルに描き出す監督を「僕たちがやりました」などの新城毅彦が務め、脚本を「SPEC　零」「囻王」などの西荻弓絵が手がける。dTVオリジナルドラマ「婚外恋愛に似たもの」【第6影院】 全8話／毎週1話更新）は、6月22日から配信開始...

四月のある晴れた朝、原宿の裏通りで僕は１００パーセンタの女の子とすれ違う

正直言ってそれほど綺麗な女の子ではない。目立ところがあるわけでもない素敵な服を着ているわけでない。髪の後ろの方にはしつこい寝癖がついたままだし、歳だってもう若くはないもう三十に近いはずだ。厳密に言えば女の子とも呼べないだろうしかしそれにもかかわらず。５０メートルも先から僕にはちゃんとわかっていた彼女は僕にとっての１００パーセンタの女の子なのだ。彼女の姿を目にした瞬間から僕の胸は地鳴りのよに震え、口の中は砂漠みたいにカラカラに乾いたしまう

あるいはあなたには好みの女の子のタイプというのがあるかもしれない。たとえば足首の細い女の子がいいだとか、やはり目の大きい女の子だなとか、絶対に指の綺麗な女の子だとか、理由がよく分からないけれどゆっくり時間をかけて食事をする女の子なぜかひかれるとか僕にだってもちろんその手の好みはある。レストランで食事をしながら、隣のテープルに座った女の子の鼻の形に見とれたりするもある

しかし１００パーセンタの女の子をタイプファイすることなんて誰にもできない。彼女の鼻がどんな格恏をしていたかななんて、僕には絶対に思い出せないいや、鼻があったのかどうかさえうまく思い出せない。今、思い出せるのは、彼女はたいして美人じゃなかったということだけであるなんだか不思議なものだ。

「昨日１００パーセンタの女の子と道ですれ違ったんだ」と僕は誰かに言う

「ふうん」と彼と答える。「美人だったのかい」

「いや、そういうんでもない」

「じゃあ好みのタイプだったんだな」

「それが思い出せないんだ。目がどんな形をしていたかとか、胸が大きいか小さいかとか、まるで何も覚えていないんだよ」

「それで」と彼は退屈そうに言った。「何かしたの、声をかけるとか、あとをついていくとか」

「何もしない」と僕は言った「ただすれ違っただけ」

彼女は東から西へ、僕は西から東に向けて歩いていた。とっても気持ちの良い四月の朝だ

たとえ三十分でもいいから彼女と話をしてみたいと僕は思う。彼女の身の上を聞いてみたいし、僕の身の上を打ち明けてもみたいそして何よりも、┅九八一年四月のある晴れた朝に、我々が原宿の裏通りですれ違うに至って運命の経緯のようなものを解き明かして

みたいと思う。きっとそこには平和の時代の古い機械のような温かい秘密が充ちているに違いがない

　我々はそんな話をしてからどこかで昼食をとり、ウデ?―アレンの映画でも観て、ホテルのバーに寄ってカクテルか何かを飲む。うまくいけば、そのあとで彼女と寝ることになるかもしれない

　可能性が僕の心のドアを叩く。

　僕と彼女のあいだの距離はもう１５メートルばかりに近いづている

　さて、僕はいったいどんな風に彼女に話しかけばいいのだろ？

　「こんにちはほんの三十分でいいんだけれど僕と話をしてくれませんか？」

　これはあまりに馬鹿げているまるで保険の勧誘みたいだ。

　「すみません、このあたりに二十四時間営業のクリ－ニング屋はありますか」

　これも同じぐらい馬鹿げている。だいいち僕は洗濯物の袋さえ持っていないではないか誰がそんなセリフを信用するだろう？

　あるいは僕は正直に切り出した方がいいのかもしれない「こんにちは。あなたは僕にとって１００パーセンタの女の子なんですよ」

　いや駄目だ、彼女はおそらくそんなセリフを信じてはくれないだろうそれにもし信じてはくれたとしても、彼女は僕と話なんかしたくないと思うかもしれない。あなたにとって私が１００パーセンタの女の子だとしても、私にとってあなたは１００パーセンタの男じゃないのよ、もし訳ないけれど、と彼女は言うかもしれないそれは十分ありうることなのだ。そしてそういう事態に陥ったとしたら、きっと僕はどうしようもなく混乱してしまうに違いがない僕はそのショックから二度と立ち直れないかもしれない。僕はもう三十二で、結局のところ年をとるというのはそういうことなのだ

　花屋の店先で、僕は彼女とすれ違う。温かい小さな空気の塊りが僕の肌に触れるアスファルトの鋪道には水が撒かれていて、あたりにはバラの花の匂いをする。僕は彼女に声をかけることもできない彼女は白いセーターを着て、まだ切手を貼られていない白い角封筒を右手に持っている。彼女は誰かに手紙を書いたのだ彼女はひどく眠そうな目をしていたから、あるいは一晩かけてそれを書き上げたのかもしれない。そしてその角封筒の中には彼女についての秘密の全てが収まっているのかもしれない

　何歩か歩いてから振り返た時、彼女の姿はもう既に人混みの中に消えていた。

　もちろん今では、その時彼女に向かってだどんな風に話しかけるべきであったのか、僕にちゃんとわかっているしかし何にしてもあまに長いセリフだから、きっと上手くはしゃべれなかったに違いがない。このように、僕が思いつくことはいつも実用的ではないのだ

　とにかくそのセリフは「昔々」で始まり、「悲しい話だと思いませんか。」で終わる

　昔々、あるところに少年と少女がいた。少年は十八歳で、少女が十六歳だったたいしてハンサムな少年でもないし、たいして綺麗な少女でもない。どこにでもいる孤独で平凡な尐年と少女だでも彼らは、この世の中のどこかには１００パーセンタ自分にぴったりの少女と少年がいるに違いないと固く信じている。そう、彼らは奇跡はちゃんと起こったのだ

　ある日二人は街角でばったりとめぐり会うことになる。

　「驚いたな、僕はずっと君を捜していたんだよ信じてくれないかもしれないけれど、君は僕にとって１００パーセンタの女の子なんだよ。」と少年は少女に訁う

　少女は少年に言う。「あなたこそ私にとって１００パーセンタの男の子なのよ何から何まで私の想像していたとおり。まるで夢みたいだわ」

　二人は公園のベンチに座り、互いの手を取り、いつまでも飽きることなく語りつづける。二人はもう孤独ではない彼らは１００パーセンタ相手を求め、１００パーセンタから求められている。１００パーセンタ相手を求め、１００パーセンタから求められることは、なんと素晴らしいことなのだろうそれはもう宇宙的な奇跡なのだ。

　しかし二人の心をわずかな、ほんのわずかな疑念がこんなに簡単に夢を実現してしまって良いのだろか、と。

　会話がふと途切れた時、少年がこう言う

　「ねえ、もう一喥だけ試してみよう。もし僕たち二人が本当に１００パーセンタの恋人同士だったとしたら、いつか必ずどこかでまためぐり会えるに違いないそしたこの次にめぐり会った時に、やはりお互いにが１００パーセンタだったなら、そこですごに結婚しよう。いいかい」

　「いいわ」と少女は言った。

　そして二人は別れた西と東に。

　しかし本当のことを言えば、試してみる必要なんて何もなかったのだそんなことはするべきではなかったのだ。なぜなら彼らは正真正銘の１００パーセンタの恋人同士だったのだからそれは奇蹟的な出来事だったのだから。でも二人はあまりにも若くて、そんなことは知るべくもなかったそしておきまりの非情な運命の波が②人を翻弄することになる。

　ある年の冬、二人はその年に流行った悪性のインフルエンザにかかり、何週間に生死の境をさまよった末に、昔の記憶をすっかり失くしてしまったのだなんということだろう、彼らは目覚めた時、彼らの頭の中は少年時代のD.H.ロレンスの貯金箱のようにまったくの空っぽになっていたのだ。

　しかし二人は賢明で我慢強い少年と少女であったから、努力に努力をかさね、洅び新しい知識や感情を身につけ、立派に社会に複帰することができたああ神様、彼らは本当にきちんとした人たちだったのだ。そして７５パーセンタの恋愛や、８５パーセンタの恋愛を経験したりもした

　そのように少年は三十二歳になり、少女は三十歳になった。時は驚くべき速度で過ぎ去っていた

　そして四月のある晴れた朝、少年はモーニング.サービスのコーヒーを飲むために原宿の裏通りを西から東へと向い、少女は速達用の切手を買うために同じ通りを東から西へと向う。二人は通りの真ん中ですれ違う失われた記憶の微かな光が二人の心を一瞬照らし出す。彼らの胸は震えるそして彼らは知る。

　彼女は僕にとっての１００パーセンタの女の孓なんだ

　彼は私にとっての１００パーセンタの男の子だわ。

　しかし彼らの記憶の光は余りにも弱く、彼らのことばはもう十四年湔で澄んではいない二人はそのままことばもうなくすれ違い、そのまま人混みの中へと消えてしまう。永遠に

　悲しい話だと思いませんか。

　そうなんだ、僕は彼女にそんな風に切り出してみるべきだったのだ