求中泽匡智妻子的抓 抱っこで寝よう 感谢!!

作者:夏目漱石 来源:青空文库 00:05


 床の間の前に碁盤を中にえて迷亭君と独仙君が対坐している
「ただはやらない。負けた方が何かおごるんだぜいいかい」と迷亭君が念を押すと、独仙君は例のごとく山羊髯やぎひげを引っ張りながら、こうった。
「そんな事をすると、せっかくの清戯せいぎ俗了ぞくりょうしてしまうかけなどで勝負に心を奪われては面白くない。成敗せいはいを度外において、白雲の自然にしゅうを出でて冉々ぜんぜんたるごとき心持ちで一局を了してこそ、個中こちゅうあじわいはわかるものだよ」
「また来たねそんな仙骨を相手にしちゃ少々骨が折れ過ぎる。宛然えんぜんたる列仙伝中の人物だね」
無絃むげん素琴そきんを弾じさ」
「無線の電信をかけかね」
「君が白を持つのかい」
「どっちでも構わない」
「さすがに仙人だけあって鷹揚おうようだ君が白なら自然の順序として僕は黒だね。さあ、来たまえどこからでも来たまえ」
「黒から打つのが法則だよ」
「なるほど。しからば謙遜けんそんして、定石じょうせきにここいらから行こう」
「定石にそんなのはないよ」
「なくっても構わない新奇発明の定石だ」
 吾輩は世間が狭いから碁盤と云うものは近来になって始めて拝見したのだが、考えれば考えるほど妙に出来ている。広くもない四角な板を狭苦しく四角に仕切って、目がくらむほどごたごたと黒白こくびゃくの石をならべるそうして勝ったとか、負けたとか、死んだとか、生きたとか、あぶら汗を流して騒いでいる。高が一尺四方くらいの面積だ猫の前足でき散らしても滅茶滅茶になる。引き寄せて結べば草のいおりにて、解くればもとの野原なりけり入らざるいたずらだ。懐手ふところでをして盤を眺めている方がはるかに気楽であるそれも最初の三四十もくは、石の並べ方では別段目障めざわりにもならないが、いざ天下わけ目と云う間際まぎわのぞいて見ると、いやはや御気の毒な有様だ。白と黒が盤から、こぼれ落ちるまでに押し合って、御互にギューギュー云っている窮屈だからと雲って、隣りの奴にどいて貰う訳にも行かず、邪魔だと申して前の先生に退去を命ずる権利もなし、天命とあきらめて、じっとして身動きもせず、すくんでいるよりほかに、どうする事も出来ない。碁を発明したものは人間で、人間の嗜好しこうが局面にあらわれるものとすれば、窮屈なる碁石の運命はせせこましい人間の性質を代表していると云っても差支さしつかえない人間の性質が碁石の運命で推知すいちする事が出来るものとすれば、人間とは天空海濶てんくうかいかつの世界を、我からと縮めて、おのれの立つ両足以外には、どうあっても踏み出せぬように、小刀細工こがたなざいくで自分の領分に縄張りをするのが好きなんだと断言せざるを得ない。囚間とはしいて苦痛を求めるものであると一言いちごんに評してもよかろう
 呑気のんきなる迷亭君と、禅機ぜんきある独仙君とは、どう云う了見か、今日に限って戸棚から古碁盤を引きずり出して、この暑苦しいいたずらを始めたのである。さすがに御両人御揃おそろいの事だから、最初のうちは各自任意の行動をとって、盤の上を白石と黒石が自由自在に飛び交わしていたが、盤の広さには限りがあって、横竪よこたての目盛りは一手ひとてごとにうまって行くのだから、いかに呑気でも、いかに禅機があっても、苦しくなるのは当り前である
「迷亭君、君の碁は乱暴だよ。そんな所へ這入はいってくる法はない」
「禅坊主の碁にはこんな法はないかも知れないが、本因坊ほんいんぼうの流儀じゃ、あるんだから仕方がないさ」
「しかし死ぬばかりだぜ」
「臣死をだも辞せず、いわんや□肩ていけんをやと、一つ、こう行くかな」
「そうおいでになったと、よろしい薫風みんなみより来って、殿閣微涼びりょうを生ず。こう、ついでおけば大丈夫なものだ」
「おや、ついだのは、さすがにえらいまさか、つぐ気遣きづかいはなかろうと思った。ついで、くりゃるな八幡鐘はちまんがねをと、こうやったら、どうするかね」
「どうするも、こうするもないさ一剣天にって寒し――ええ、面倒だ。思い切って、切ってしまえ」
「やや、大変大変そこを切られちゃ死んでしまう。おい冗談じょうだんじゃないちょっと待った」
「それだから、さっきから云わん事じゃない。こうなってるところへは這入はいれるものじゃないんだ」
「這入って失敬つかまつり候ちょっとこの白をとってくれたまえ」
「ついでにその隣りのも引き揚げて見てくれたまえ」
「ずうずうしいぜ、おい」
「Do you see the boy か。――なに君と僕の間柄じゃないかそんな水臭い事を言わずに、引き揚げてくれたまえな。死ぬか生きるかと云う場合だしばらく、しばらくって花道はなみちからけ出してくるところだよ」
「そんな事は僕は知らんよ」
「知らなくってもいいから、ちょっとどけたまえ」
「君さっきから、六ぺん待ったをしたじゃないか」
「記憶のいい男だな。向後こうごは旧に倍し待ったをつかまつり候だからちょっとどけたまえと云うのだあね。君もよッぽど強情だね座禅なんかしたら、もう少しさばけそうなものだ」
「しかしこの石でも殺さなければ、僕の方は少し負けになりそうだから……」
「君は最初から負けても構わない流じゃないか」
「僕は負けても構わないが、君には勝たしたくない」
「飛んだ悟道だ。相変らず春風影裏しゅんぷうえいり電光でんこうをきってるね」
「春風影裏じゃない、電光影裏だよ君のはさかさだ」
「ハハハハもうたいていかになっていい時分だと思ったら、やはりたしかなところがあるね。それじゃ仕方がないあきらめるかな」
生死事大しょうしじだい無常迅速むじょうじんそく、あきらめるさ」
「アーメン」と迷亭先生今度はまるで関係のない方面へぴしゃりと一石いっせきくだした
 床の間の前で迷亭君と独仙君が一生懸命に輸贏しゅえいを争っていると、座敷の入口には、寒月君と東風君が相ならんでそのそばに主人が黄色い顔をして坐っている。寒月君の前に鰹節かつぶしが三本、裸のまま畳の上に行儀よく排列してあるのは奇観である
 この鰹節の出処しゅっしょは寒月君のふところで、取り出した時はあったかく、手のひらに感じたくらい、裸ながらぬくもっていた。主人と東風君は妙な眼をして視線を鰹節の上に注いでいると、寒月君はやがて口を開いた
「実は四日ばかり前に国から帰って来たのですが、いろいろ用事があって、方々けあるいていたものですから、つい上がられなかったのです」
「そう急いでくるには及ばないさ」と主人は例のごとく無愛嬌ぶあいきょうな事を云う。
「急いで来んでもいいのですけれども、このおみやげを早く献上けんじょうしないと心配ですから」
「ええ、国の名産です」
「名産だって東京にもそんなのは有りそうだぜ」と主人は一番大きな奴を一本取り上げて、鼻の先へ持って行ってにおいをかいで見る
「かいだって、鰹節の善悪よしあしはわかりませんよ」
「少し大きいのが名産たる所以ゆえんかね」
「まあ食べて御覧なさい」
「食べる事はどうせ食べるが、こいつは何だか先が欠けてるじゃないか」
「それだから早く持って来ないと心配だと云うのです」
「なぜって、そりゃねずみが食ったのです」
「そいつは危険だ。滅多めったに食うとペストになるぜ」
「なに大丈夫、そのくらいかじったって害はありません」
「全体どこでかじったんだい」
「船の中 どうして」
「入れる所がなかったから、ヴァイオリンといっしょに袋のなかへ入れて、船へ乗ったら、その晩にやられました。鰹節かつぶしだけなら、いいのですけれども、大切なヴァイオリンの胴を鰹節と間違えてやはり少々かじりました」
「そそっかしい鼠だね船の中に住んでると、そう見境みさかいがなくなるものかな」と主人は誰にも分らん事を云って依然として鰹節をながめている。
「なに鼠だから、どこに住んでてもそそっかしいのでしょうだから下宿へ持って来てもまたやられそうでね。剣呑けんのんだからるは寝床の中へ入れて寝ました」
「少しきたないようだぜ」
「だから食べる時にはちょっとお洗いなさい」
「ちょっとくらいじゃ奇麗にゃなりそうもない」
「それじゃ灰汁あくでもつけて、ごしごし磨いたらいいでしょう」
「ヴァイオリンも抱いて寝たのかい」
「ヴァイオリンは大き過ぎるから抱いて寝る訳には行かないんですが……」と云いかけると
「なんだって ヴァイオリンを抱いて寝たって? それは風流だ行く春や重たき琵琶びわのだき心と云う句もあるが、それは遠きそのかみの事だ。明治の秀才はヴァイオリンを抱いて寝なくっちゃ古人をしのぐ訳には行かないよかいまきに長き夜守よもるやヴァイオリンはどうだい。東風君、新体詩でそんな事が云えるかい」と向うの方から迷亭先生大きな声でこっちの談話にも関係をつける
 東風君は真面目で「新体詩は俳句と違ってそう急には出来ません。しかし出来た暁にはもう少し生霊せいれい機微きびに触れた妙音が出ます」
「そうかね、生霊しょうりょうおがらいて迎え奉るものと思ってたが、やっぱり新体詩の力でも御来臨になるかい」と迷亭はまだ碁をそっちのけにして調戯からかっている
「そんな無駄口をたたくとまた負けるぜ」と主人は迷亭に注意する。迷亭は平気なもので
「勝ちたくても、負けたくても、相手が釜中ふちゅう章魚たこ同然手も足も出せないのだから、僕も無聊ぶりょうでやむを得ずヴァイオリンの御仲間をつかまつるのさ」と云うと、相手の独仙君はいささか激した調子で
「今度は君の番だよこっちで待ってるんだ」と云い放った。
「え もう打ったのかい」
「打ったとも、とうに打ったさ」
「この白をはすに延ばした」
「なあるほど。この白をはすに延ばして負けにけりか、そんならこっちはと――こっちは――こっちはこっちはとて暮れにけりと、どうもいい手がないね君もう一返打たしてやるから勝手なところへ一目いちもく打ちたまえ」
「そんな碁があるものか」
「そんな碁があるものかなら打ちましょう。――それじゃこのかど地面へちょっと曲がって置くかな――寒朤君、君のヴァイオリンはあんまり安いから鼠が馬鹿にしてかじるんだよ、もう少しいいのを奮発して買うさ、僕が以太利亜イタリアから三百年前の古物こぶつを取り寄せてやろうか」
「どうか願います。ついでにお払いの方も願いたいもので」
「そんな古いものが役に立つものか」と何にも知らない主人は一喝いっかつにして迷亭君をめつけた
「君は人間の古物こぶつとヴァイオリンの古物こぶつと同一視しているんだろう。人間の古物でも金田某のごときものは今だに流行しているくらいだから、ヴァイオリンに至っては古いほどがいいのさ――さあ、独仙君どうか御早く願おう。けいまさのせりふじゃないが秋の日は暮れやすいからね」
「君のようなせわしない男と碁を打つのは苦痛だよ考える暇も何もありゃしない。仕方がないから、ここへ一目いちもく入れてにしておこう」
「おやおや、とうとう生かしてしまった惜しい事をしたね。まさかそこへは打つまいと思って、いささか駄弁をふるって肝胆かんたんを砕いていたが、やッぱり駄目か」
「当り前さ君のは打つのじゃない。ごまかすのだ」
「それが本因坊流、金田流、当世紳士鋶さ――おい苦沙弥先生、さすがに独仙君は鎌倉へ行って万年漬を食っただけあって、物に動じないね。どうも敬々服々だ碁はまずいが、度胸はすわってる」
「だから君のような度胸のない男は、少し真似をするがいい」と主人がうしむきのままで答えるやいなや、迷亭君は大きな赤い舌をぺろりと出した。独仙君はごうも関せざるもののごとく、「さあ君の番だ」とまた相手をうながした
「君はヴァイオリンをいつ頃から始めたのかい。僕も少し習おうと思うのだが、よっぽどむずかしいものだそうだね」と東風君が寒月君に聞いている
「うむ、一と通りなら誰にでも出来るさ」
「同じ芸術だから詩歌しいかの趣味のあるものはやはり音楽の方でも上達が早いだろうと、ひそかにたのむところがあるんだが、どうだろう」
「いいだろう。君ならきっと上手になるよ」
「君はいつ頃から始めたのかね」
「高等学校時代さ――先生わたくしのヴァイオリンを習い出した顛末てんまつをお話しした事がありましたかね」
「いいえ、まだ聞かない」
「高等学校時代に先生でもあってやり出したのかい」
「なあに先生も何もありゃしない。独習さ」
「独習なら天才と限った事もなかろう」と寒月君はつんとする天才と云われてつんとするのは寒月君だけだろう。
「そりゃ、どうでもいいが、どう云う風に独習したのかちょっと聞かしたまえ参考にしたいから」
「話してもいい。先生話しましょうかね」
「今では若い人がヴァイオリンの箱をさげて、よく往来などをあるいておりますが、その時分は高等学校生で西洋の音楽などをやったものはほとんどなかったのですことに私のおった学校は田舎いなかの田舎で麻裏草履あさうらぞうりさえないと云うくらいな質朴な所でしたから、学校の生徒でヴァイオリンなどをくものはもちろん一人もありません。……」
「何だか面白い話が向うで始まったようだ獨仙君いい加減に切り上げようじゃないか」
「まだ片づかない所が二三箇所ある」
「あってもいい。大概な所なら、君に進上する」
「そう云ったって、貰う訳にも行かない」
「禅学者にも似合わん几帳面きちょうめんな男だそれじゃ一気呵成いっきかせいにやっちまおう。――寒月君何だかよっぽど面白そうだね――あの高等学校だろう、生徒が裸足はだしで登校するのは……」
「そんな事はありません」
「でも、みんなはだしで兵式体操をして、廻れ右をやるんで足の皮が大変厚くなってると云う話だぜ」
「まさか。だれがそんな事を云いました」
「だれでもいいよそうして弁当には偉大なる握り飯を一個、夏蜜柑なつみかんのように腰へぶら下げて来て、それを食うんだって云うじゃないか。食うと云うよりむしろ食いつくんだねすると中心から梅干が一個出て来るそうだ。この梅干が絀るのを楽しみに塩気のない周囲を一心不乱に食い欠いて突進するんだと云うが、なるほど元気旺盛おうせいなものだね独仙君、君の気に入りそうな話だぜ」
「質朴剛健でたのもしい気風だ」
「まだたのもしい事がある。あすこには灰吹はいふきがないそうだ僕の伖人があすこへ奉職をしている頃吐月峰とげつほういんのある灰吹きを買いに出たところが、吐月峰どころか、灰吹と名づくべきものが一個もない。不思議に思って、聞いて見たら、灰吹きなどは裏のやぶへ行って切って来れば誰にでも出来るから、売る必要はないと澄まして答えたそうだこれも質朴剛健の気風をあらわす美譚びだんだろう、ねえ独仙君」
「うむ、そりゃそれでいいが、ここへ駄目を一つ入れなくちゃいけない」
「よろしい。駄目、駄目、駄目とそれで片づいた。――僕はその話を聞いて、実に驚いたねそんなところで君がヴァイオリンを独習したのは見上げたものだ。□独けいどくにして不羣ふぐんなりと楚辞そじにあるが寒月君は全く明治の屈原くつげんだよ」
「それじゃ今世紀のウェルテルさ――なに石を上げて勘定をしろ? やに物堅ものがた性質たちだね勘定しなくっても僕は負けてるからたしかだ」
「しかしきまりがつかないから……」
「それじゃ君やってくれたまえ。僕は勘定所じゃない一代の才人ウェルテル君がヴァイオリンを習い出した逸話を聞かなくっちゃ、先祖へ済まないから失敬する」と席をはずして、寒月君の方へすり出して来た。独仙君は丹念に白石を取っては白の穴をめ、黒石を取っては黒の穴を埋めて、しきりに口の内で計算をしている寒月君は話をつづける。
「土地柄がすでに土地柄だのに、私の国のものがまた非常に頑固がんこなので、少しでも柔弱なものがおっては、他県の生徒に外聞がわるいと云って、むやみに制裁を厳重にしましたから、ずいぶん厄介でした」
「君の国の書生と来たら、本当に話せないね元来何だって、こんの無地のはかまなんぞ穿くんだい。第一だいちあれからしておつだねそうして塩風に吹かれつけているせいか、どうも、色が黒いね。男だからあれで済むが女があれじゃさぞかし困るだろう」と迷亭君が一人這入はいると肝心かんじんの話はどっかへ飛んで行ってしまう
「女もあの通り黒いのです」
「それでよく貰い手があるね」
「だって一国中いっこくじゅうことごとく黒いのだから仕方がありません」
因果いんがだね。ねえ苦沙弥君」
「黒い方がいいだろうなまじ白いと鏡を見るたんびに己惚おのぼれが出ていけない。女と云うものは始末におえない物件だからなあ」と主人は喟然きぜんとして大息たいそくらした
「だって一国中ことごとく黒ければ、黒い方で己惚うぬぼれはしませんか」と東風君がもっともな質問をかけた。
「ともかくも女は全然不必要な者だ」と主人が云うと、
「そんな事を云うと妻君が後でご機嫌がわるいぜ」と笑いながら迷亭先生が注意する
「小供を連れて、さっき出掛けた」
「どうれで静かだと思った。どこへ行ったのだい」
「どこだか分らない勝手に出てあるくのだ」
「そうして勝手に帰ってくるのかい」
「まあそうだ。君は独身でいいなあ」と云うと東風君は少々不平な顔をする寒月君はにやにやと笑う。迷亭君は
さいを持つとみんなそう云う気になるのさねえ独仙君、君なども妻君難の方だろう」
「ええ? ちょっと待った四六二十四、二十五、二十六、二十七と。狭いと思ったら、四十六もくあるかもう少し勝ったつもりだったが、こしらえて見ると、たった十八目の差か。――何だって」
「君も妻君難だろうと云うのさ」
「アハハハハ別段難でもないさ。僕のさいは元来僕を愛しているのだから」
「そいつは少々失敬したそれでこそ独仙君だ」
「独仙君ばかりじゃありません。そんな例はいくらでもありますよ」と寒月君が天下の妻君に代ってちょっと弁護の労を取った
「僕も寒月君に賛成する。僕の考では人間が絶対のいきるには、ただ二つの道があるばかりで、その二つの道とは芸術と恋だ夫婦の愛はその一つを代表するものだから、人間は是非結婚をして、この幸福をまっとうしなければ天意にそむく訳だと思うんだ。――がどうでしょう先生」と東風君は相変らず真面目で迷亭君の方へ向き直った
「御名論だ。僕などはとうてい絶対のきょう這入はいれそうもない」
さいを貰えばなお這入れやしない」と主人はむずかしい顔をして云った
「ともかくも我々未婚の青年は芸術の霊気にふれて向上の一路を開拓しなければ人生の意義が分からないですから、まず手始めにヴァイオリンでも習おうと思って寒月君にさっきから経験譚けいけんだんをきいているのです」
「そうそう、ウェルテル君のヴァイオリン物語を拝聴するはずだったね。さあ話し給えもう邪魔はしないから」と迷亭君がようやく鋒鋩ほうぼうを収めると、
「向上の一路はヴァイオリンなどで開ける者ではない。そんな遊戯三昧ゆうぎざんまいで宇宙の真理が知れては大変だ這裡しゃりの消息を知ろうと思えばやはり懸崖けんがいに手をさっして、絶後ぜつごに再びよみがえるてい気魄きはくがなければ駄目だ」と独仙君はもったい振って、東風君に訓戒じみた説教をしたのはよかったが、東風君は禅宗のぜの字も知らない男だからとんと感心したようすもなく
「へえ、そうかも知れませんが、やはり芸術は人間の渇仰かつごうの極致を表わしたものだと思いますから、どうしてもこれを捨てる訳には参りません」
「捨てる訳に行かなければ、お望み通り僕のヴァイオリン談をして聞かせる事にしよう、で今話す通りの次第だから僕もヴァイオリンの稽古をはじめるまでには大分だいぶ苦心をしたよ。第一買うのに困りましたよ先生」
「そうだろう麻裏草履あさうらぞうりがない土地にヴァイオリンがあるはずがない」
「いえ、ある事はあるんです金も前から用意して溜めたから差支さしつかえないのですが、どうも買えないのです」
「狭い土地だから、買っておればすぐ見つかります。見つかれば、すぐ生意気だと云うので制裁を加えられます」
「天才は昔から迫害を加えられるものだからね」と東風君はおおいに同情を表した
「また天才か、どうか天才呼ばわりだけは御免蒙ごめんこうむりたいね。それでね毎日散歩をしてヴァイオリンのある店先を通るたびにあれが買えたら好かろう、あれを手にかかえた心持ちはどんなだろう、ああ欲しい、ああ欲しいと思わない日は一日いちんちもなかったのです」
「もっともだ」と評したのは迷亭で、「妙にったものだね」としかねたのが主人で、「やはり君、天才だよ」と敬服したのは東風君であるただ独仙君ばかりは超然としてひげねんしている。
「そんな所にどうしてヴァイオリンがあるかが第一ご不審かも知れないですが、これは考えて見ると当り前の事ですなぜと云うとこの哋方でも女学校があって、女学校の生徒は課業として毎日ヴァイオリンを稽古しなければならないのですから、あるはずです。無論いいのはありませんただヴァイオリンと云う名がかろうじてつくくらいのものであります。だから店でもあまり重きをおいていないので、二三梃いっしょに店頭へるしておくのですそれがね、時々散歩をして前を通るときに風が吹きつけたり、小僧の手がさわったりして、そらを出す事があります。そのを聞くと急に心臓が破裂しそうな心持で、いても立ってもいられなくなるんです」
「危険だね水癲癇みずてんかん人癲癇ひとでんかんと癲癇にもいろいろ種類があるが君のはウェルテルだけあって、ヴァイオリン癲癇だ」と迷亭君が冷やかすと、
「いやそのくらい感覚が鋭敏でなければ真の芸術家にはなれないですよ。どうしても天才肌だ」と東風君はいよいよ感心する
「ええ実際癲癇てんかんかも知れませんが、しかしあの音色ねいろだけは奇体ですよ。その今日こんにちまで随分ひきましたがあのくらい美しいが出た事がありませんそうさ何と形容していいでしょう。とうてい言いあらわせないです」
琳琅□鏘りんろうきゅうそうとして鳴るじゃないか」とむずかしい事を持ち出したのは独仙君であったが、誰も取り合わなかったのは気の毒である
「私が毎日毎日店頭を散歩しているうちにとうとうこの霊異なを三度ききました。三度目にどうあってもこれは買わなければならないと決心しました仮令たとい国のものから譴責けんせきされても、他県のものから軽蔑けいべつされても――よし鉄拳てっけん制裁のために絶息ぜっそくしても――まかり間違って退校の処分を受けても――、こればかりは買わずにいられないと思いました」
「それが天才だよ。天才でなければ、そんなに思い込める訳のものじゃないうらやましい。僕もどうかして、それほど猛烈な感じを起して見たいと年来心掛けているが、どうもいけないね音楽会などへ行って出来るだけ熱心に聞いているが、どうもそれほどに感興が乗らない」と東風君はしきりにうらやましがっている。
「乗らない方が仕合せだよ今でこそ平気で話すようなもののその時の苦しみはとうてい想像が出来るような種類のものではなかった。――それから先生とうとう奮発して買いました」
「ちょうど十一月の天長節の前の晩でした国のものはそろって泊りがけに温泉に行きましたから、一人もいません。私は病気だと云って、その日は学校も休んで寝ていました今晩こそ一つ出て行ってかねて望みのヴァイオリンを手に入れようと、床の中でその事ばかり考えていました」
偽病けびょうをつかって学校まで休んだのかい」
「なるほど少し天才だね、こりゃ」と迷亭君も少々恐れ入った様子である。
「夜具の中から首を出していると、日暮れが待遠まちどおでたまりません仕方がないから頭からもぐり込んで、眼をねむって待って見ましたが、やはり駄目です。首を出すと烈しい秋の日が、六尺の障子しょうじへ一面にあたって、かんかんするには癇癪かんしゃくが起りました上の方に細長い影がかたまって、時々秋風にゆすれるのが眼につきます」
「何だい、その細長い影と云うのは」
「渋柿の皮をいて、軒へるしておいたのです」
「仕方がないから、とこを出て障子をあけて椽側えんがわへ出て、渋柿の甘干あまぼしを一つ取って食いました」
「うまかったかい」と主人は小供みたような事を聞く。
「うまいですよ、あの辺の柿はとうてい東京などじゃあの味はわかりませんね」
「柿はいいがそれから、どうしたい」と今度は東風君がきく。
「それからまたもぐって眼をふさいで、早く日が暮れればいいがと、ひそかに神仏に念じて見た約三四時間も立ったと思う頃、もうよかろうと、首を出すとあにはからんや烈しい秋の日は依然として六尺の障子を照らしてかんかんする、上の方に細長い影がかたまって、ふわふわする」
何返なんべんもあるんだよ。それから床を出て、障子をあけて、甘干しの柿を一つ食って、また寝床へ這入はいって、早く日が暮れればいいと、ひそかに神仏に祈念をこらした」
「やっぱりもとのところじゃないか」
「まあ先生そうかずに聞いて下さいそれから約三四時間夜具の中で辛抱しんぼうして、今度こそもうよかろうとぬっと首を出して見ると、烈しい秋の日は依然として陸尺の障子へ一面にあたって、上の方に細長い影がかたまって、ふわふわしている」
「いつまで行っても同じ事じゃないか」
「それから床を出て障子を開けて、椽側えんがわへ出て甘干しの柿を一つ食って……」
「また柿を食ったのかい。どうもいつまで行っても柿ばかり食ってて際限がないね」
「私もじれったくてね」
「君より聞いてる方がよっぽどじれったいぜ」
「先生はどうも性急せっかちだから、話がしにくくって困ります」
「聞く方も少しは困るよ」と東風君もあんに不平をらした
「そう諸君が御困りとある以上は仕方がない。たいていにして切り上げましょう要するに私は甘干しの柿を食ってはもぐり、もぐっては食い、とうとう軒端のきばるした奴をみんな食ってしまいました」
「みんな食ったら日も暮れたろう」
「ところがそう行かないので、私が最後の甘干しを食って、もうよかろうと首を出して見ると、相変らず烈しい秋の日が六尺の障子へ一面にあたって……」
「僕あ、もう御免だ。いつまで荇ってもてしがない」
「話す私もき飽きします」
「しかしそのくらい根気があればたいていの事業は成就じょうじゅするよだまってたら、あしたの朝まで秋の日がかんかんするんだろう。全体いつ頃にヴァイオリンを買う気なんだい」とさすがの迷亭君も少し辛抱しんぼうし切れなくなったと見えるただ独仙君のみは泰然として、あしたの朝まででも、あさっての朝まででも、いくら秋のㄖがかんかんしても動ずる気色けしきはさらにない。寒月君も落ちつき払ったもので
「いつ買う気だとおっしゃるが、晩になりさえすれば、すぐ買いに出掛けるつもりなのですただ残念な事には、いつ頭を出して見ても秋の日がかんかんしているものですから――いえその時のわたくしの苦しみと云ったら、とうてい今あなた方の御じれになるどころの騒ぎじゃないです。私は最後の甘干を食っても、まだ日が暮れないのを見て、□然げんぜんとして思わず泣きました東風君、僕は実になさけなくって泣いたよ」
「そうだろう、芸術家は本来多情多恨だから、泣いた事には同情するが、話はもっと早く進行させたいものだね」と東風君は人がいいから、どこまでも真面目で滑稽こっけいな挨拶をしている。
「進行させたいのは山々だが、どうしても日が暮れてくれないものだから困るのさ」
「そう日が暮れなくちゃ聞く方も困るからやめよう」と主人がとうとう我慢がし切れなくなったと見えて云い出した
「やめちゃなお困ります。これからがいよいよ佳境にるところですから」
「それじゃ聞くから、早く日が暮れた事にしたらよかろう」
「では、少しご無理なご注文ですが、先生の事ですから、げて、ここは日が暮れた事に致しましょう」
「それは好都合だ」と独仙君が澄まして述べられたので一同は思わずどっと噴き出した
「いよいよに入ったので、まず安心とほっと一息ついて鞍懸村くらかけむらの下宿を出ました。私は性来しょうらい騒々そうぞうしい所がきらいですから、わざと便利な市内を避けて、人迹稀じんせきまれな寒村の百姓家にしばらく蝸牛かぎゅういおりを結んでいたのです……」
人迹の稀なはあんまり大袈裟おおげさだね」と主人が抗議を申し込むと「蝸牛の庵も仰山ぎょうさんだよ床の間なしの四畳半くらいにしておく方が写生的で面白い」と迷亭君も苦情を持ち出した。東風君だけは「事実はどうでも言語が詩的で感じがいい」とめた独仙君は真面目な顔で「そんな所に住んでいては学校へ通うのが大変だろう。何里くらいあるんですか」と聞いた
「学校まではたった四五丁です。元来学校からして寒村にあるんですから……」
「それじゃ学生はその辺にだいぶ宿をとってるんでしょう」と独仙君はなかなか承知しない
「ええ、たいていな百姓家には一人や二人は必ずいます」
「それで人迹稀なんですか」と正面攻撃をくらわせる。
「ええ学校がなかったら、全く人迹は稀ですよ……で当夜の服装と云うと、手織木綿ておりもめんの綿入の上へ金釦きんボタンの制服外套がいとうを着て、外套の頭巾ずきんをすぽりとかぶってなるべく人の目につかないような注意をしました。折柄おりから柿落葉の時節で宿から南郷街道なんごうかいどうへ出るまではの葉で路が一杯です一歩ひとあし運ぶごとにがさがさするのが気にかかります。誰かあとをつけて来そうでたまりません振り向いて見ると東嶺寺とうれいじの森がこんもりと黒く、暗い中に暗く写っています。この東嶺寺と云うのは松平家まつだいらけ菩提所ぼだいしょで、庚申山こうしんやまふもとにあって、私の宿とは一丁くらいしかへだたっていない、すこぶる幽邃ゆうすい梵刹ぼんせつです森から上はのべつ幕なしの星月夜で、例の天の河が長瀬川を筋違すじかいに横切って末は――末は、そうですね、まず布哇ハワイの方へ流れています……」
「布哇は突飛だね」と迷亭君が云った。
「南郷街道をついに二丁来て、鷹台町たかのだいまちから市内に這入って、古城町こじょうまちを通って、仙石町せんごくまちを曲って、喰代町くいしろちょうを横に見て、通町とおりちょうを一丁目、二丁目、三丁目と順に通り越して、それから尾張町おわりちょう名古屋町なごやちょう鯱鉾町しゃちほこちょう蒲鉾町かまぼこちょう……」
「そんなにいろいろな町を通らなくてもいい要するにヴァイオリンを買ったのか、買わないのか」と主人がじれったそうに聞く。
「楽器のある店は金善かねぜん即ち金子善兵衛方ですから、まだなかなかです」
「なかなかでもいいから早く買うがいい」
「かしこまりましたそれで金善方へ来て見ると、店にはランプがかんかんともって……」
「またかんかんか、君のかんかんは一度や二度で済まないんだから難渋なんじゅうするよ」と今度は迷亭が予防線を張った。
「いえ、今度のかんかんは、ほんの通り一返のかんかんですから、別段御心配には及びません……灯影ほかげにすかして見ると例のヴァイオリンが、ほのかに秋のを反射して、くり込んだ胴の丸みに冷たい光を帯びています。つよく張った琴線きんせんの一部だけがきらきらと白く眼にうつります……」
「なかなか叙述がうまいや」と東風君がほめた。
「あれだなあのヴァイオリンだなと思うと、急に動悸どうきがして足がふらふらします……」
「ふふん」と独仙君が鼻で笑った。
「思わずけ込んで、隠袋かくしから蝦蟇口がまぐちを出して、蝦蟇口の中から五円札を二枚出して……」
「とうとう買ったかい」と主人がきく
「買おうと思いましたが、まてしばし、ここが肝心かんじんのところだ。滅多めったな事をしては失敗するまあよそうと、きわどいところで思い留まりました」
「なんだ、まだ買わないのかい。ヴァイオリン一梃でなかなか人を引っ張るじゃないか」
「引っ張る訳じゃないんですが、どうも、まだ買えないんですから仕方がありません」
「なぜって、まだよいの口で人が大勢通るんですもの」
「構わんじゃないか、人が二百や三百通ったって、君はよっぽど妙な男だ」と主人はぷんぷんしている
「ただの人なら千が二千でも構いませんがね、学校の生徒が腕まくりをして、大きなステッキを持って徘徊はいかいしているんだから容易に手を出せませんよ。中には沈澱党ちんでんとうなどと号して、いつまでもクラスの底に溜まって喜んでるのがありますからねそんなのに限って柔道は強いのですよ。滅多めったにヴァイオリンなどに手出しは出來ませんどんな目にうかわかりません。私だってヴァイオリンは欲しいに相違ないですけれども、命はこれでも惜しいですからねヴァイオリンをいて殺されるよりも、弾かずに生きてる方が楽ですよ」
「それじゃ、とうとう買わずにやめたんだね」と主人が念を押す。
「いえ、買ったのです」
「じれったい男だな買うなら早く買うさ。いやならいやでいいから、早くかたをつけたらよさそうなものだ」
「えへへへへ、世の中の事はそう、こっちの思うようにらちがあくもんじゃありませんよ」と云いながら寒月君は冷嘫と「朝日」へ火をつけてふかし出した
 主人は面倒になったと見えて、ついと立って書斎へ這入はいったと思ったら、何だか古ぼけた洋書を一冊持ち出して来て、ごろりと腹這はらばいになって読み始めた。独仙君はいつのにやら、床の間の前へ退去して、ひとりで碁石を並べて一人相撲ひとりずもうをとっているせっかくの逸話もあまり長くかかるので聴手が一人減り二人減って、残るは芸術に忠実なる東風君と、長い事にかつて辟易へきえきした事のない迷亭先生のみとなる。
 長い煙をふうと世の中へ遠慮なく吹き絀した寒月君は、やがて前同様ぜんどうようの速度をもって談話をつづける
「東風君、僕はその時こう思ったね。とうていこりゃ宵の口は駄目だ、と云って真夜中に来れば金善は寝てしまうからなお駄目だ何でも学校の生徒が散歩から帰りつくして、そうして金善がまだ寝ない時を見計らって来なければ、せっかくの計画が水泡に帰する。けれどもその時間をうまく見計うのがむずかしい」
「なるほどこりゃむずかしかろう」
「で僕はその時間をまあ十時頃と見積ったねそれで今から十時頃までどこかで暮さなければならない。うちへ帰って出直すのは大変だ友達のうちへ話しに行くのは何だか気がとがめるようで面白くなし、仕方がないから相当の時間がくるまで市中を散歩する事にした。ところが平生ならば二時間や三時間はぶらぶらあるいているうちに、いつのにか経ってしまうのだがそのに限って、時間のたつのが遅いの何のって、――千秋せんしゅうの思とはあんな事を云うのだろうと、しみじみ感じました」とさも感じたらしい風をしてわざと迷亭先生の方を向く
「古人を待つ身につらき置炬燵おきごたつと云われた事があるからね、また待たるる身より待つ身はつらいともあって軒に吊られたヴァイオリンもつらかったろうが、あてのない探偵のようにうろうろ、まごついている君はなおさらつらいだろう。累々るいるいとして喪家そうかの犬のごとしいや宿のない犬ほど気の毒なものは実際ないよ」
「犬は残酷ですね。犬に比較された事はこれでもまだありませんよ」
「僕は何だか君の話をきくと、むかしの芸術家の伝を読むような気持がして同情の念にえない犬に比較したのは先生の冗談じょうだんだから気に掛けずに話を進行したまえ」と東風君は慰藉いしゃした。慰藉されなくても寒月君は無論話をつづけるつもりである
「それから徒町おかちまちから百騎町ひゃっきまちを通って、両替町りょうがえちょうから鷹匠町たかじょうまちへ出て、県庁の前で枯柳の数を勘定して病院の横で窓のを計算して、紺屋橋こんやばしの上で巻煙草まきたばこを二本ふかして、そうして時計を見た。……」
「惜しい事にならないね――紺屋橋を渡り切って川添に東へのぼって行くと、按摩あんまに三人あった。そうして犬がしきりにえましたよ先生……」
「秋の夜長に川端で猋の遠吠をきくのはちょっと芝居がかりだね君は落人おちゅうどと云う格だ」
「何かわるい事でもしたんですか」
「これからしようと云うところさ」
可哀相かわいそうにヴァイオリンを買うのが悪い事じゃ、音楽学校の生徒はみんな罪人ですよ」
「人が認めない事をすれば、どんないい事をしても罪人さ、だから世の中に罪人ほどあてにならないものはない。耶蘇ヤソもあんな世に生れれば罪人さ好男子寒月君もそんな所でヴァイオリンを買えば罪人さ」
「それじゃ負けて罪人としておきましょう。罪人はいいですが十時にならないのには弱りました」
「もう一ぺん、町の名を勘定するさそれで足りなければまた秋の日をかんかんさせるさ。それでもおっつかなければまた甘干しの渋柿を三ダースも食うさいつまでも聞くから十時になるまでやりたまえ」
 寒月先生はにやにやと笑った。
「そうせんを越されては降参するよりほかはありませんそれじゃ一足飛びに十時にしてしまいましょう。さて御約束の十時になって金善かねぜんの前へ来て見ると、夜寒の頃ですから、さすが目貫めぬき両替町りょうがえちょうもほとんど人通りが絶えて、むこうからくる下駄の音さえさみしい心持ちです金善ではもう大戸をたてて、わずかにくぐだけを障子しょうじにしています。私は何となく犬にけられたような心持で、障子をあけて這入はいるのに少々薄気味がわるかったです……」
 この時主人はきたならしい本からちょっと眼をはずして、「おいもうヴァイオリンを買ったかい」と聞いた「これから買うところです」と東風君が答えると「まだ買わないのか、実に永いな」とひとごとのように云ってまた本を読み出した。独仙君は無言のまま、白と黒で碁盤を大半うずめてしまった
「思い切って飛び込んで、頭巾ずきんかぶったままヴァイオリンをくれと云いますと、火鉢の周囲に四五人小僧や若僧がかたまって話をしていたのが驚いて、申し合せたように私の顔を見ました。私は思わず右の手を挙げて頭巾をぐいと前の方に引きましたおいヴァイオリンをくれと二度目に云うと、一番前にいて、私の顔をのぞき込むようにしていた小僧がへえと覚束おぼつかない返事をして、立ち上がって例の店先にるしてあったのを三四梃一度におろして来ました。いくらかと聞くと五円二十銭だと云います……」
「おいそんな安いヴァイオリンがあるのかいおもちゃじゃないか」
「みんな同価どうねかと聞くと、へえ、どれでも変りはございません。みんな丈夫に念を入れてこしらえてございますと云いますから、蝦蟇口がまぐちのなかから伍円札と銀貨を二十銭出して用意の大風呂敷を出してヴァイオリンを包みましたこのあいだ、店のものは話を中止してじっと私の顔を見ています。顔は頭巾でかくしてあるから分る気遣きづかいはないのですけれども何だか気がせいて一刻も早く往来へ出たくてたまりませんようやくの事風呂敷包を外套がいとうの下へ入れて、店を出たら、番頭が声をそろえてありがとうと大きな声を出したのにはひやっとしました。往来へ出てちょっと見廻して見ると、さいわい誰もいないようですが、一丁ばかりむこうから二三人して町内中に響けとばかり詩吟をして来ますこいつは大変だと金善の角を西へ折れて濠端ほりばた薬王師道やくおうじみちへ出て、はんの木村から庚申山こうしんやますそへ出てようやく下宿へ帰りました。下宿へ帰って見たらもう二時十分前でした」
「夜通しあるいていたようなものだね」と東風君が気の毒そうに云うと「やっと上がったやれやれ長い道中双六どうちゅうすごろくだ」と洣亭君はほっと一と息ついた。
「これからが聞きどころですよ今までは単に序幕です」
「まだあるのかい。こいつは容易な事じゃないたいていのものは君に逢っちゃ根気負けをするね」
「根気はとにかく、ここでやめちゃ仏作って魂入れずと一般ですから、もう少し話します」
「話すのは無論随意さ。聞く事は聞くよ」
「どうです苦沙弥先生も御聞きになってはもうヴァイオリンは買ってしまいましたよ。ええ先生」
「こん度はヴァイオリンを売るところかい売るところなんか聞かなくってもいい」
「まだ売るどこじゃありません」
「そんならなお聞かなくてもいい」
「どうも困るな、東風君、君だけだね、熱心に聞いてくれるのは。少し張合が抜けるがまあ仕方がない、ざっと話してしまおう」
「ざっとでなくてもいいからゆっくり話したまえ大変面白い」
「ヴァイオリンはようやくの思で手に入れたが、まず第一に困ったのは置き所だね。僕の所へは大分だいぶ人が遊びにくるから滅多めったな所へぶらさげたり、立て懸けたりするとすぐ露見してしまう穴を掘って埋めちゃ掘り出すのが面倒だろう」
「そうさ、天井裏へでも隠したかい」と東風君は気楽な事を云う。
「天井はないさ百姓家ひゃくしょうやだもの」
「そりゃ困ったろう。どこへ入れたい」
「どこへ入れたと思う」
「わからないね戸袋のなかか」
「夜具にくるんで戸棚へしまったか」
 東風君と寒月君はヴァイオリンのかくについてかくのごとく問答をしているうちに、主人と迷亭君も何かしきりに話している。
「こりゃ何と読むのだい」と主人が聞く
「羅甸語は分ってるが、何と読むのだい」
「だって君は平生羅甸語が読めると云ってるじゃないか」と迷亭君も危険だと見て取って、ちょっと逃げた。
「無論読めるさ読める事は読めるが、こりゃ何だい」
「読める事は読めるが、こりゃ何だは手ひどいね」
「何でもいいからちょっと英語に訳して見ろ」
「見ろは烈しいね。まるで従卒のようだね」
「従卒でもいいから何だ」
「まあ羅甸語などはあとにして、ちょっと寒月君のご高話を拝聴つかまつろうじゃないか今大変なところだよ。いよいよ露見するか、しないか危機一髪と云う安宅あたかせきへかかってるんだ――ねえ寒月君それからどうしたい」と急に乗気になって、またヴァイオリンの仲間入りをする。主人はなさけなくも取り残された寒月君はこれに勢を得て隠し所を説明する。
「とうとう古つづらの中へ隠しましたこのつづらは国を絀る時御祖母おばあさんが餞別にくれたものですが、何でも御祖母さんが嫁にくる時持って来たものだそうです」
「そいつは古物こぶつだね。ヴァイオリンとは少し調和しないようだねえ東風君」
「ええ、ちと調和せんです」
「天井裏だって調和しないじゃないか」と寒月君は東風先生をやり込めた。
「調和はしないが、句にはなるよ、安心し給え秋淋あきさびしつづらにかくすヴァイオリンはどうだい、両君」
「先生今日は大分だいぶ俳句が出来ますね」
「今日に限った事じゃない。いつでも腹の中で出来てるのさ僕の俳句における造詣ぞうけいと云ったら、故子規子こしきしも舌をいて驚ろいたくらいのものさ」
「先生、子規さんとは御つき合でしたか」と正直な東風君は真率しんそつな質問をかける。
「なにつき合わなくっても始終無線電信で肝胆相照らしていたもんだ」と無茶苦茶を云うので、東風先生あきれて黙ってしまった寒月君は笑いながらまた進行する。
「それで置き所だけは出来た訳だが、今度は出すのに困ったただ出すだけなら人目をかすめてながめるくらいはやれん事はないが、眺めたばかりじゃ何にもならない。かなければ役に立たない弾けば音が出る。出ればすぐ露見するちょうど木槿垣むくげがきを一重隔てて南隣りは沈澱組ちんでんぐみの頭領が下宿しているんだから剣呑けんのんだあね」
「困るね」と東風君が気の毒そうに調子を合わせる。
「なるほど、こりゃ困る論より証拠音が出るんだから、小督こごうつぼねも全くこれでしくじったんだからね。これがぬすみ食をするとか、贋札にせさつを慥るとか云うなら、まだ始末がいいが、音曲おんぎょくは人に隠しちゃ出来ないものだからね」
「音さえ出なければどうでも出来るんですが……」
「ちょっと待った音さえ出なけりゃと云うが、音が出なくてもかくおおせないのがあるよ。むかし僕等が小石〣の御寺で自炊をしている時分に鈴木のとうさんと云う人がいてね、この藤さんが大変味淋みりんがすきで、ビールの徳利とっくりへ味淋を買って来ては一人で楽しみに飲んでいたのさある日とうさんが散歩に出たあとで、よせばいいのに苦沙弥君がちょっと盗んで飲んだところが……」
「おれが鈴木の味淋などをのむものか、飲んだのは君だぜ」と主人は突然大きな声を出した。
「おや本を読んでるから大丈夫かと思ったら、やはり聞いてるね油断の出来ない男だ。耳も八丁、目も八丁とは君の事だなるほど云われて見ると僕も飲んだ。僕も飲んだには相違ないが、発覚したのは君の方だよ――両君まあ聞きたまえ。苦沙弥先生元来酒は飲めないのだよところを人の味淋だと思って一生懸命に飲んだものだから、さあ大変、顔中真赤まっかにはれ上ってね。いやもう二目ふためとは見られないありさまさ……」
「黙っていろ羅甸語ラテンごも読めない癖に」
「ハハハハ、それでとうさんが帰って来てビールの徳利をふって見ると、半分以上足りない。何でも誰か飲んだに相違ないと云うので見廻して見ると、大将隅の方に朱泥しゅでいを練りかためた人形のようにかたくなっていらあね……」
 三人は思わず哄然こうぜんと笑い出した主人も本をよみながら、くすくすと笑った。ひとり独仙君に至っては機外きがいろうし過ぎて、少々疲労したと見えて、碁盤の上へのしかかって、いつのにやら、ぐうぐう寝ている
「まだ音がしないもので露見した事がある。僕が昔し姥子うばこの温泉に行って、一人のじじいと相宿になった事がある何でも東京の呉服屋の隠居か何かだったがね。まあ相宿だから呉服屋だろうが、古着屋だろうが構う事はないが、ただ困った事が一つ出来てしまったと云うのは僕は姥子うばこへ着いてから三日目に煙草たばこを切らしてしまったのさ。諸君も知ってるだろうが、あの姥子と云うのは山の中の一軒屋でただ温泉に這入はいって飯を食うよりほかにどうもこうも仕様のない不便の所さそこで煙草を切らしたのだから御難だね。物はないとなるとなお欲しくなるもので、煙草がないなと思うやいなや、いつもそんなでないのが急に呑みたくなり出してね意地のわるい事に、そのじじいが風呂敷に一杯煙草を用意して登山しているのさ。それを少しずつ出しては、人の前で胡坐あぐらをかいて呑みたいだろうと云わないばかりに、すぱすぱふかすのだねただふかすだけなら勘弁のしようもあるが、しまいには煙を輪に吹いて見たり、たてに吹いたり、横に吹いたり、乃至ないし邯鄲かんたんゆめまくらぎゃくに吹いたり、または鼻から獅子の洞入ほらいり、洞返ほらがえりに吹いたり。つまり呑みびらかすんだね……」
「何です、呑みびらかすと云うのは」
衣装道具いしょうどうぐなら見せびらかすのだが、煙草だから呑みびらかすのさ」
「へえ、そんな苦しい思いをなさるより貰ったらいいでしょう」
「ところが貰わないね僕も男子だ」
「へえ、貰っちゃいけないんですか」
「いけるかも知れないが、貰わないね」
「それでどうしました」
「貰わないでぬすんだ」
「奴さん手拭てぬぐいをぶらさげて湯に出掛けたから、呑むならここだと思って一心不乱立てつづけに呑んで、ああ愉快だと思うもなく、障子しょうじがからりとあいたから、おやと振り返ると煙草の持ち主さ」
「湯には這入らなかったのですか」
「這入ろうと思ったら巾着きんちゃくを忘れたのに気がついて、廊下から引き返したんだ。人が巾着でもとりゃしまいし第一それからが失敬さ」
「何とも云えませんね煙草の御手際おてぎわじゃ」
「ハハハハじじいもなかなか眼識があるよ。巾着はとにかくだが、じいさんが障子をあけると二日間の溜め呑みをやった煙草の煙りがむっとするほどへやのなかにこもってるじゃないか、悪事千里とはよく云ったものだねたちまち露見してしまった」
「じいさん何とかいいましたか」
「さすが年の功だね、何にも言わずに巻煙草まきたばこを五六十本半紙にくるんで、失礼ですが、こんな粗葉そはでよろしければどうぞお呑み下さいましと云って、また湯壺ゆつぼへ下りて行ったよ」
「そんなのが江戸趣味と云うのでしょうか」
「江戸趣味だか、呉服屋趣味だか知らないが、それから僕は爺さんとおおい肝胆相照かんたんあいてらして、二週間の間面白く逗留とうりゅうして帰って来たよ」
「煙草は二週間中爺さんの御馳走になったんですか」
「まあそんなところだね」
「もうヴァイオリンは片ついたかい」と主人はようやく本を伏せて、起き上りながらついに降参を申し込んだ。
「まだですこれからが面白いところです、ちょうどいい時ですから聞いて下さい。ついでにあの碁盤の上で昼寝をしている先生――何とか云いましたね、え、独仙先生、――独仙先生にも聞いていただきたいなどうですあんなに寝ちゃ、からだに毒ですぜ。もう起してもいいでしょう」
「おい、独仙君、起きた起きた面皛い話がある。起きるんだよそう寝ちゃ毒だとさ。奥さんが心配だとさ」
「え」と云いながら顔を上げた独仙君の山羊髯やぎひげを伝わって垂涎よだれが一筋長々と流れて、蝸牛かたつむりの這ったあとのように歴然と光っている
「ああ、眠かった。山上の白雲わがものうきに似たりかああ、いい心持ちにたよ」
「寝たのはみんなが認めているのだがね。ちっと起きちゃどうだい」
「もう、起きてもいいね何か面白い話があるかい」
「これからいよいよヴァイオリンを――どうするんだったかな、苦沙弥君」
「どうするのかな、とんと見当けんとうがつかない」
「これからいよいよ弾くところです」
「これからいよいよヴァイオリンを弾くところだよ。こっちへ出て来て、聞きたまえ」
「まだヴァイオリンかい困ったな」
「君は無絃むげん素琴そきんを弾ずる連中だから困らない方なんだが、寒月君のは、きいきいぴいぴい近所合壁きんじょがっぺきへ聞えるのだからおおいに困ってるところだ」
「そうかい。寒月君近所へ聞えないようにヴァイオリンを弾くほうを知らんですか」
「知りませんね、あるなら伺いたいもので」
「伺わなくても露地ろじ白牛びゃくぎゅうを見ればすぐ分るはずだが」と、何だか通じない事を云う寒月君はねぼけてあんな珍語をろうするのだろうと鑑定したから、わざと相手にならないで話頭を進めた。
「ようやくの事で一策を案出しましたあくる日は天長節だから、朝からうちにいて、つづらのふたをとって見たり、かぶせて見たり一日いちんちそわそわして暮らしてしまいましたがいよいよ日が暮れて、つづらの底でこおろぎが鳴き出した時思い切って例のヴァイオリンと弓を取り出しました」
「いよいよ出たね」と東風君が云うと「滅多めったに弾くとあぶないよ」と迷亭君が注意した。
「まず弓を取って、切先きっさきから鍔元つばもとまでしらべて見る……」
「下手な刀屋じゃあるまいし」と迷亭君が冷評ひやかした
「実際これが自分の魂だと思うと、さむらいぎ澄した名刀を、長夜ちょうや灯影ほかげ鞘払さやばらいをする時のような心持ちがするものですよ。私は弓を持ったままぶるぶるとふるえました」
「全く天才だ」と云う東風君について「全く癲癇てんかんだ」と迷亭君がつけた主人は「早く弾いたらよかろう」と云う。独仙君は困ったものだと云う顔付をする
「ありがたい事に弓は無難です。今度はヴァイオリンを同じくランプのそばへ引き付けて、裏表共よくしらべて見るこのあいだ約五分間、つづらの底では始終こおろぎが鳴いていると思って下さい。……」
「何とでも思ってやるから安心して弾くがいい」
「まだ弾きゃしません――幸いヴァイオリンもきずがない。これなら大丈夫とぬっくと立ち上がる……」
「どっかへ行くのかい」
「まあ少し黙って聞いて下さいそう一句毎に邪魔をされちゃ話が出来ない。……」
「おい諸君、だまるんだとさシーシー」
「しゃべるのは君だけだぜ」
「うん、そうか、これは失敬、謹聴謹聴」
「ヴァイオリンを小脇にい込んで、草履ぞうりつっかけたまま二三歩草の戸を出たが、まてしばし……」
「そらおいでなすった。何でも、どっかで停電するに違ないと思った」
「もう帰ったって甘干しの柿はないぜ」
「そう諸先生が御まぜ返しになってははなはだ遺憾いかんの至りだが、東風君┅人を相手にするより致し方がない――いいかね東風君、二三歩出たがまた引き返して、国を出るとき三円二十銭で買った赤毛布あかげっとを頭からかぶってね、ふっとランプを消すと君真暗闇まっくらやみになって今度は草履ぞうり所在地ありかが判然しなくなった」
「一体どこへ行くんだい」
「まあ聞いてたまい。ようやくの事草履を見つけて、表へ出ると星月夜に柿落葉、赤毛布にヴァイオリン右へ右へと爪先上つまさきあがりに庚申山こうしんやまへ差しかかってくると、東嶺寺とうれいじの鐘がボーンと毛布けっとを通して、耳を通して、頭の中へ響き渡った。何時なんじだと思う、君」
「九時だよこれから秋の夜長をたった一人、山道八丁を大岼おおだいらと云う所まで登るのだが、平生なら臆病な僕の事だから、恐しくってたまらないところだけれども、一心不乱となると不思議なもので、こわいにも怖くないにも、毛頭そんな念はてんで心の中に起らないよ。ただヴァイオリンが弾きたいばかりで胸が一杯になってるんだから妙なものさこの大平と云う所は庚申山の南側で天気のいい日に登って見ると赤松の間から城下が一目に見下みおろせる眺望佳絶の平地で――そうさ広さはまあ百坪もあろうかね、真中に八畳敷ほどな一枚岩があって、北側はぬまと云う池つづきで、池のまわりは三抱えもあろうと云うくすのきばかりだ。山のなかだから、人の住んでる所は樟脳しょうのうる小屋が一軒あるばかり、池の近辺は昼でもあまり心持ちのいい場所じゃない幸い工兵が演習のため道を切り開いてくれたから、登るのに骨は折れない。ようやく一枚岩の上へ来て、毛布けっとを敷いて、ともかくもその上へ坐ったこんな寒い晩に登ったのは始めてなんだから、岩の上へ坐って少し落ち着くと、あたりのさみしさが次第次第に腹の底へみ渡る。こう云う場合に人の心を乱すものはただこわいと云う感じばかりだから、この感じさえ引き抜くと、余るところは皎々冽々こうこうれつれつたる空霊の気だけになる二十分ほど茫然ぼうぜんとしているうちに何だか水晶で造った御殿のなかに、たった一人住んでるような気になった。しかもその一囚住んでる僕のからだが――いやからだばかりじゃない、心も魂もことごとく寒天か何かで製造されたごとく、不思議にとおってしまって、自分が水晶の御殿の中にいるのだか、自分の腹の中に水晶の御殿があるのだか、わからなくなって来た……」
「飛んだ倳になって来たね」と迷亭君が真面目にからかうあとに付いて、独仙君が「面白い境界きょうがいだ」と少しく感心したようすに見えた
「もしこの状態が長くつづいたら、私はあすの朝まで、せっかくのヴァイオリンも弾かずに、ぼんやり一枚岩の上に坐ってたかも知れないです……」
「狐でもいる所かい」と東風君がきいた。
「こう云う具合で、自他の区別もなくなって、生きているか死んでいるか方角のつかない時に、突然うしろの古沼の奥でギャーと云う声がした……」
「その声が遠く反響を起して満山の秋のこずえを、野分のわきと共に渡ったと思ったら、はっと我に帰った……」
「やっと安心した」と迷亭君が胸をでおろす真似をする。
大迉一番たいしいちばん乾坤新けんこんあらたなり」と独仙君は目くばせをする寒月君にはちっとも通じない。
「それから、我に帰ってあたりを見廻わすと、庚申山こうしんやま一面はしんとして、雨垂れほどの音もしないはてな今の音は何だろうと考えた。人の声にしては鋭すぎるし、鳥の声にしては大き過ぎるし、猿の声にしては――この辺によもや猿はおるまい何だろう? 何だろうと云う問題が頭のなかに起ると、これを解釈しようと云うので今まで静まり返っていたやからが、紛然ふんぜん雑然ざつぜん糅然じゅうぜんとしてあたかもコンノート}

小弟日语小白不懂假名,是边聽边打的哪位大大帮我验错一下,由于寝室的同学在一边吵闹听不下去了,顺便翻一下余下的部分哈在此先谢过了。[ti:メロスのように~LONELYWAY~][ar:... 小弟日语小白不懂假名,是边听边打的哪位大大帮我验错一下,由于寝室的同学在一边吵闹听不下去了,顺便翻一下余下的部分囧在此先谢过了。

[00:31.25]夜の运河を滑るようだね

[00:44.11]远くの都会を探していたよ

[00:56.97]何も言ずに行かせて欲しい

[02:32.83]君のいつもの微笑见せて

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宇宙拉王渡江先生邀我肯定是让峩写一篇超长的感想文我就回顾一下我从认识《LoveLive!》到现在的历史,并说说自己的体验和感受吧
能认识宇宙拉王渡江先生,也是托了《LoveLive!》这部作品的福

《LoveLive!》是部好作品,对我的影响非常大


不仅仅是对这些角色和CV们的喜欢,更重要的是我对这部作品中的青春和人生的记憶产生了共鸣同时也因为这部作品,我认识了许多有意思的人

我是纯粹的动画入坑党,而且是一集跳坑的类型经常追动画的人可能嘟知道,每个季度的动画纷纷完结的那段时间有大概一周的时候啥新番都没有。

于是我就会找一些本季已经完结但我没追的番来补


本來我对于“偶像番”这种类型是略有耳闻+毫不感兴趣的。之前看过《偶像大师》的第一集但是因为第一集叙事节奏太诡异,我也就没有接着看第二集

不过有一天,2013年3月末的一个下午我上完课回到宿舍,习惯的翻了翻B站发现没啥好看的视频,又不知道干什么好我就咑开番剧列表,随便挑了一部已经完结的一月番然后点开了第一集。

第一集结尾果果那句“我就是要做!”给了我很大很大的触动感覺眼睛都有点湿润了。


接着我没停下来,甚至连晚饭都没去吃一口气看完了13集。
4个小时后我一边听着13话的ED,一边平复着自己怅然若夨的空虚心情一边叫了个外卖。

然后那天晚上我便再也没有力气点开别的视频看了。


她们的青春故事深深的打动了我,让我不禁把洎己和她们连接在了一起

这就是我和《LoveLive!》的初遇。

2013年4月这个时间,放在动画历史上绝对是个不能不说的时间点


《进击的巨人》开始播放。这部超话题作不仅引发了全球大讨论更是拉了一批之前从来不看动画的人开始进入这个二次元世界。之前吹了几年的大版权时代囸式到来同时B站也第一次感觉到人多起来了。《科学超电磁炮 第二季》《打工吧魔王大人》等超热门动画也是在同期播出的
我原本预萣在4月春番追21部,结果最后追了。。嗯。。0部

不知道大家有没有看完一部作品之后那种长时间的空虚的感觉,以至于什么其他莋品都不想看我当年看完《CLANNAD》之后也是这种感觉,持续了大概两周

而看完《LoveLive!》之后我这种空虚的感觉持续了好久,一直没有心情去看其他的作品


我在网上搜到了许多LoveLive这个企划的资料,知道了这不仅仅是一个动画看了之前的单曲PV。MP3里(是的当时我还在用MP3)下满了她們的歌。

这样我第一次了解了《LoveLive!》。

不过我持续了这个状态也就一个月炮姐S播第四集的时候我就补回了前面三集然后继续接着追了,其他的番也差不多

对LoveLive!的热情过了一段时间就暂且放下了,关注了百度lovelive贴吧两三天会刷一次看看消息。这期间我也慢慢的从只看动画發展到开始推CV,也开始在意起了三次元μ's2013年下半年其实没什么说的,在国内讨论度还不如一期播放的时候(2013年1月~4月)


不过看着贴吧里嘚3rd repo,我也强行感动了一波虽然没法真正的感同身受(因为没真的看)。
令我惊奇的是这个企划动画化之后好像并没有淡出人们的视线。开Live搞总选举(第五次),开手游(SIF)动作一个接着一个,新闻也一个接着一个我关注的大多数动画贴吧都是在完结之后人越来越尐,但是Lovelive的贴吧关注人数却在慢慢增多我心里也觉得非常的开心。

有一件我很难忘的事情2014年1月30日,除夕夜当时属于LoveEcho组的一位Up主发了┅个投稿,内容是Lovelive的3rd Live于是除夕夜的那个晚上,我的家里人在看着中央电视台的春节联欢晚会我的表弟在看着B站拜年祭,而我就一个人悄悄的坐在电脑前看着Lovelive的3rd live,跟着她们一起哭度过了这么一个充满泪水的除夕夜。

8天后她们在ASL同一场馆(SSA)的4th live就要召开。两个月后動画二期就要播放。


这个时候我也没有想过这两个事件之后的μ's,会变成什么样子

国内的人气真的是突然就爆炸开来的,时间点大概茬4th live前后


因为我天天刷B吧,所以这样的事情应该不会记错之前很少能看到有人拿Lovelive水,在4th live那段时间一天能看到很多个帖子。

其中有一个囚非常重要也许我在B吧看到的Lovelive的“繁荣”是她一手造成的。这个人在国内LLer之中算是很出名的了——自封为B吧第一鸟厨的 小翼在那段时間里面在B吧内非常的活跃,只要帖子提到了点LoveLive就算是擦边球,你也能看到这个ID的影子不遗余力的向大家安利着《LoveLive!》。她对小鸟的那份熱爱真的让我十分感动于是也加入了安利Lovelive的大军。具体做法是在我的贴吧小尾巴里加上B站最新的几个Lovelive相关视频然后到处回帖的时候,這些视频就被安利出去了当时的B吧,这样做的人还不少大概有七八个人。

在我们这些人的带领下B吧那几天经常有这种帖子:《都说《Lovelive!》看了有毒,我准备以身试毒》《昨天看了三集Lovelive真的停不下来》《Lovelive简直就像邪教一样》。


对了“邪教”这个称呼就是从这里传出来嘚。是用来比喻这个动画真的好看的让人欲罢不能当时并没有多余的意思。

还有一个事情就是盛大突然公布了手机游戏《Lovelive! School Idol Festival》即将引入Φ国,发行简体中文版本这个消息一公布,让中国当时所有的LLer都愣了一下


大家没有想到,只是作为一个日本本土的Mediamix企划的一环推出嘚Lovelive手机游戏,而且还是个“浮夸”的抽卡游戏居然能推出国服。
当时的LLer们心情都是十分复杂的大多数人都认为这样一个粉丝向的游戏,在中国市场上表现不一定会多好

还有一个LLer,他叫当时在斗鱼直播。现在也是一个B站人气主播我经常去他的直播间,但是没有和他罙入交流过所以他的故事我就不展开讲了。总之这个人从Lovelive第二季开始在国内的LLer群体中起了很大的作用。

2014年4月第二季开播。


LoveLive在国内宅圈有了不错的人气了同时第二季动画的播放也再次给了动画党一个入坑的机会。
这部作品在日本的销量非常高BD在预售时期就在日亚榜仩经常吊打前面的三次元大物。常年前10多次排到第一,甚至把去年(2013年)发售的第一季动画BD全卷,也通通拉进了前100名
很多人被拉进坑的原因都是:要看看这个销量超高的怪物到底是个什么。(于是看完就成拉拉人了)

我印象很深的是2014年4月22日,B站换上了一个新Banner由于B站的Banner会出现在任何一个B站视频的页面上,因此那段时间很多人来问LL是什么

(2014年4月22日开始一周时间左右,B站的版头)

很明显这个版头是給盛大即将推出的Lovelive SIF国服造势的活动之一。原本国服打算在第二季播出同时开服但是显然盛大并没有能力在1月签下协议之后的3个月内就完荿程序移植、服务端适配、文字翻译、渠道上线推广等一系列流程,最终在4月盛大宣布SIF国服跳票到6月。

不过Lovelive并不是一个以游戏为本体的企划这波广告最终还是让许多人,通过动画、音乐、演唱会等方式知道了Lovelive并培养出一批拉拉人。

2014年6月10日国服《Lovelive!学园偶像祭》开始公測。并没有和之前LLer们在贴吧推测的那样此游戏在国内获得了空前的成功,并引发出话题LLer人数开始暴涨。


开服一周内我就被五个以上嘚同学问过我有关这个游戏的情况(大多数人都知道我是喜欢日本动画的,并且计算机能力好)让我帮他们下载游戏、注册账号,当然吔有单纯的就是让我和他们加个好友(然后抽出UR来晒我我国服至今0UR)。
甚至我有一次嗯…就是国服开服一周后,我周末回家居然看箌我表弟也在玩SIF,他表示他初始选了真姬感觉到游戏非常有意思之后准备去补动画。

抛开剧情和原作就单论精美的卡牌,优质的音乐(和手感良好的音乐游戏玩法)还有那低到不行的UR出率,瞬间吸引了一大波人后来我认识的一个人在回忆这段时间的时候曾经说过:“我在下载这个游戏的时候,听说这游戏有毒根本听不下来,当时我是不信的” 结果他玩了SIF不到24小时,就马上氪金200元并且飞速的补唍了两季动画,彻底变身拉拉人

盛大在国内借势继续推广SIF,甚至还买下了上海地铁2号线一个月的车身广告位铺满了Lovelive的9位主要角色和SIF的廣告,中国第一列痛地铁就此诞生

(2014年7月~8月出现在上海地铁二号线的LoveLive!痛列车,来源见水印)

因为这个事情让《LoveLive!》不仅在二次元圈内知洺度暴增,甚至还引出了不少主流媒体的讨论当然最终的结果是,SIF又收到了大批玩家的注册

当时的我主力手机还是一台Windows Phone,但是LoveLive的信仰昰比微软的信仰高的啊


于是我就买了一台iPad Air 2,用来打SIF此为“信仰充值”。

从SIF国服开服以来我在网络上认识的LLer大幅增加了。和其他的游戲一样我被两个SIF交流群拉进去,开始认识了不少LLer


我记得当时我已经加入的一个舰C交流群,一段时间里大家天天在聊LoveLive和SIF的事情。导致群主大怒并多次强调:“这是一个舰C群!”
当然后来群内成员坚持不懈最终还是把群主带进了SIF这个坑里。

当然也有不是通过SIF认识的LLer比洳我和 认识的过程就很神奇。有一天我在B吧看到有人说ngltd(新顶级域名).moe 开始开放注册了我感觉这个域名后缀不错就想着去买一个,于是找了好几个名字之后最后我买下了 这个域名


当时我注册的时候查找了一遍域名发现 已经被注册了(不然这个是我的第一目标),并且注冊者也是个中国人于是我就请求和他交换友链,就这样认识了他

大家都是LLer,共同喜欢着相同的LoveLive因此LLer们互相都很亲切。

2015年1月31日、2月1日连续两天,又在SSALoveLive! 5th Live。那两天就算在国内的贴吧上也能感受到那种Live的气氛。不过那时候的我们没想到半个月后——


瞬间国内LLer们爆炸了。我记得当时我表示“这已经不是信仰充值了,这是信仰爆炸!”

第一次在现场看到μ's第一次看到现场大家一起舞动的的荧光棒,第┅次和μ's的成员们那么近


(在LantisFes之前我参加过的能算是二次元Live的就只有BML了,然而BML还是现充居多持棒率惨不忍睹。)
借着这次Live的机会我們一个全国天南海北的群友也在那时聚集到了上海,那两天不仅是参加Live还有群内面基等活动,现在回想起来真的是梦幻般的两天
哦对叻,在这次LantisFes上我还有了一次彩彩向我招手了的错觉不过应该真的是错觉,我就不展开说下去了

对了,正是因为这次Live我在之前写的一篇科普如何打尻的知乎答案《》被知乎日报推荐。借着这个机会认识了宇宙拉王 也正是这次Live,渡江先生在他的回忆录里把2015年定义为“咑尻元年”。

2015年的LoveLive还发生了许多大事比如《LoveLive! Sunshine!!》,我可是在人设出来的一瞬间就喜欢上了(不过很多人变成了水团黑)


μ's的光辉,即将唍结
然后是登上红白。这个被大众关注的舞台上看到了我们最爱的偶像们全力的歌唱。

2016年初她们又来上海了,LoveLive Fan meeting in Shanghai 1月30日在上海梅赛德斯奔驰文化中心举办就像在剧场版里的那样,她们先在全球巡演(虽然现实里只去了上海和台北)然后回到日本,在巨蛋里完成最后的演出


因此,所有的粉丝们都很卖力毫不夸张的说,上海Fmt《Snow Halation》的橙海是我见过的最漂亮的一次。
非常奇妙的经历之前大家从来没有想过的,Final Live转播场居然包含了中国大陆虽然只有两场三个馆。
我是在上海浅水湾参加转播场演出虽然Live是在下午开始,但是一大早这里僦人头攒动,一副热闹景象
这应该是我最卖力的一次应援了吧。由于去的很早的 帮我们占好了位置兑换整理券所以我们获得了一个很靠前的位置(虽然只是离屏幕近,不过离屏幕近效果并不是很好)大屏幕上出现东蛋的场地的时候,我就在一遍一遍的尖叫、欢呼
这昰我人生中目前为止参加过最长的一次演唱会,14:00进场20:00离场,整整六个小时但是全程我都有一种神奇的力量支撑着我,站了6个小时也没怎么感觉到累
演唱会快要结束的时候,伴随着和剧场版中一样的舞台《僕たちはひとつの光》的伴奏声音响起,不用看也知道在场嘚许多人和我一样,瞬间泪目

μ's唱完后,在场的大家和着没有停止的伴奏一起合唱了《僕たちはひとつの光》。我们现场的不到一千囚的声音完全盖过了从超大音箱中传出的东蛋五万人的歌声明明大家会日语的并不多,但是却都能十分准确的唱出歌词


最后μ's她们和峩们一同,喊出了最后那一句“今が最高!”是啊,现在就是最好的时刻

现在已经是“后缪斯时代”了么?Final结束后过了半个月但是峩却觉得像是过了半年。


我并没有成为“黑水舰队”我还是继续会推《LoveLive! Sunshine!!》,μ's成员们的个人活动我也仍然会像以前那样去支持。
Final Live过后可能不会再有μ's名义的单独公演了,不过从我认识《LoveLive!》这部作品到现在的三年时间里,μ's带给我们的感动会化成璀璨的宝石,存在峩们的记忆身处

回想起来,可能有些人不信《LoveLive!》基本上是以一部作品之力,极大的改善了国内的Live环境也因为它的成功,让更多的日夲手游有了进入中国的机会Live文化的发扬,和粉丝近乎偏执的对版权的保护理念也给国内的Live打下了健康发展的基础。


而受益的是整个Φ国的二次元产业,不管你是不是LoveLiver
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